本年度は前年に引続き、研究に資するための文献・史資料・論文等の収集に取組み、秋田県立秋田図書館、秋田県立公文書館、国立国会図書館を中心に収集作業をおこなった。また収集した史料の一部について分析・解読を進めた。当初の予定ではその成果をもとに論文をまとめることを考えていたが、分析作業に追われて年度内に仕上げるにはいたらなかった。ただし、分析作業を通していくつかのあたらしい知見が得られ、今後の研究を深めるうえで実りのある年度であった。 下妻藩の御用部屋日記(『下妻子史料』に収録)には家中の家の相続や家族員の消息をめぐる申請が少なからずみられ、それらを通して武家の家族が看病や介護にどのように対処していたのかをうかがうことができる。病人や要介護者が出れば「看病断」を申請して勤務を引くことはこれまで明らかにしてきたところである。しかし、定府の小藩である下妻藩の場合、下級の家中たちは地方出身が多数を占めており、彼等は「看病断」による休暇では老親の看病介護の実質に当ることができず、最終的には仕官を断念せざるを得ないという事態に追込まれるケースが発生していた。仕官のありかたが個々の家中家族のなかで看病介護の家族機能の維持にさまざまな問題を生じさせていたことになるが、藩もまた家臣団の成り立ちという点から家中家族の扶助施策に迫られていたことが見えてきた。 これまで主に武家の家族を中心に史料収集と分析を進めてきたが、庶民家族の場合は地域社会の扶助という側面も少なくなかったと思われる。身寄りのない老いた女性を寺が一時養っていたケースをみているが、村のなかの寺や宗教者の役割について、今後さらに検討を深めてみたいと考えている。
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