今年度は研究の最終年であったが、これまでの作業に引き続き、本研究に資するための図書の購入、および関連論文、資史料等の収集作業に取り組むとともに、収集した史料の一部について分析・解読を進めた。また、研究の成果を報告書として作成し整理する作業にかかり、報告書には期間中に発表した2本の小論のほか、本研究に関わる研究史を整理して「近世社会のなかの高齢者-研究の現状と課題」と題して収録した。 「近世社会のなかの高齢者」はこの3年間に収集した資史料の分析と文献の整理を行いながら、研究史を振り返り問題点と課題をまとめたものであるが、あらためて近世社会の高齢者介護のありかたをみるうえでの視点に気がついた。これまで武家の日記からは、武士が親の看病や看取りにさいして「看病断」の制度を利用して自ら介護にあたる姿を確認していたが、日記は当主の目で当主自身の行為を中心に記録されている。当主の妻や母を始め他の家族員がそのさいどのように動き、役割を持っていたのかという、家族全体の動向を捉えた上で当主である男性の看病介護の中身を位置づける必要があり、これを通じてはじめて近世家族の高齢者介護のありかたの特質がみえてくることになる。また、庶民家族の扶養介護の問題では、個々の家族の経済状況が大きく影響するほかに、地域社会の扶助役割の役割が大きかったが、地域は直接的な介護負担を避けて金銭で負担を解決しようとする動きや、村を越えた広域地域で対応するなどの動向も確認できた。以上の点は期間内に個別論文としてまとめることはできなかったが、準備を進めている段階であり、近いうちに発表したいと考えている。
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