研究概要 |
今回の研究成果について以下の三点に要約する。 第一は和同開珎の価値についてである。従来の研究では、和同開珎と物品貨幣である稲・布・銀の三財貨との間にそれぞれ換算率を設定することで,その価値を公示したとしていた。本報告では、それらの換算率の意味内容を検討することによって、和同開称の価値が布・稲によって規定されたものではなく、銀のみによって規定されたものであること、そのことにより全国レベルでの交換が、京において可能になることを明らかにした。 第二には、和同開珎の銭文を再検討することから、貨幣機能に関しての従来の見解を正したことである。従来の見解では、和同を単なる吉祥語として促えていた。本報告では、市場における不正行為である独占・価格協定(較固・開閉)に対して正常な交易を意味する語として和同があることを指摘した。そして従来の研究が、支払手段としてのみ和同開珎を位置付けるのに対して、市の交易に対する律令の規定から、和同開珎が交換手段の機能を持つ必要があることを指摘した。また、和同開珎を全国に流通させる意図を律令国家が持っていたのではなく、京においてのみ、全目的貨幣としての機能を与えたものであることを明らかにした。 第三には、京・畿内調銭の賦課規準が、戸別の調施行以降、估価という賦役令調絹〓条とは別の規準によって行われるようになったことを明らかにした。
|