院政期の社会を考察するにあたり、その前提として、院政という政治体制を実現させる結果となった後期摂関時代の諸様相を検討する必要を痛感。院政社会は上皇が政治的権力を握った政治形態をいうが、その形態を実質的に支えたのは、上皇(院)の近臣と呼ばれる下級官人層の活躍による面が強く、そうした意味から、まず下級官人の実態を捉えておく必要があった。そのために昨年度に「古記録にあらわれた下級官人の実態について-道長政権下を中心として-」を発表。門閥主義が固定された社会にあって、出世の見込みのない官人層は、強盗、放火、詐欺、愁訴、汚職などに走らざるを得ない実態について考えることができ、こうした不満を持った階層のエネルギーこそが、院政実現の大きな原動力となったことが端的に理解できたと思える。本年度は下級官人とはまったく異なった階層、つまり、摂関政治体制を積極的に支えた上級官人の生き方も見ておかなければ片手落ちであり、その意味から、帝王とまで呼ばれた藤原道長の側近として特異な生き方をした源俊賢を取り上げ、また同じ問題意識から、『大鏡』の時代に焦点を当て考察を試みた。その結果、人間は政治体制が如何に変わろうと、その基本的な類型は不変であるということが端的に理解できた。 このように摂関期から院政期への過渡期である11世紀に焦点を当てることにより、より鮮明に院政期の社会を見る視点を持つことが可能になったように思えるのである。
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