前年度に引き続いて、周代官制に関連する史料のデータベース作業を継続した。金文史料については、約8000件の銘文・著録・断代案・器影などに関わるデータを収集整理し、データベースとして利用しうる段階に到達した。また文献資料については、『春秋左氏伝』『周礼』などにみえる関連史料を収集し、テキストデータとして蓄積した。 以上のデータベース構築と並行して、研究課題である周代官制に関わる研究をすすめた。前年度は周代官制の時系列的展開を理解するために、「宰」職の展開に注目した論考を発表したが、本年度は西周期官制を共時的に把握するために、データベースを利用した網羅的研究を行い、「西周官制研究序説」として発表した。私見によるならば、従来の研究は西周期官制にヒエラルヒッシュな構造を見い出そうとするが、その復元研究は何ら証明されていない作業仮説を前提としたものであるにすぎない。西周期官制の研究は、その構造復元を課題とするのではなく、先ず第一に西周期の官制が担っていた役割・機能の分析を課題としなければならない。冊命金文の中心をなしていたのは、官職への叙任ではなく、被冊命者に周王「家」オイコスに関わる具体的な職事を指示することであった。具体的職事の指示は、「司一(一を司れ)」という表現によって示されるが、この表現が固定し官職名化することによって、西周期官制の中核をなす司土・司馬・司工といったいわゆる「司」職が誕生する。西周期の官制は、「司」概念による具体的職事指定を基礎としたものであったと評価できるのである。
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