古代中国、ことに秦漢時代は、中国全土が皇帝支配下に組み込まれ、群県もしくは群国制度の貫徹によって、ある程度均質な文明が浸透した時代である。ことに画像墓や壁画墓の全国的な普及によって、当時の人々の生活風俗や習慣、あるいは死生観といったものが具体的に図像で表現され、それらを通じて、われわれは古代中国上流層の人々の平均的な生活を如実に推定することができるようになった。 解放以前(1949年以前)の段階では、漢代の図像資料の発見の数量は限られていた。しかし、今日ではほぼ全省地域から関係資料が発見されており、古代中国人の日常生活を、かなり正確に復元することが可能となった。従来は、文献史料から生活資料を集成した瞿宣穎の『中国社会史料叢鈔』(1993年)や尚秉和の『歴代社会風俗事物考』(1938年刊)などに依拠して、中国古代風俗史を考察してきたが、近年の図像資料を補完して、はじめて視覚的に理解する道が開けたのである。 当該研究においては、できるだけ多くの漢代画像を各種報告書から摘出し、その図像のカードファイル化に努めた。そして、画像のインデックスに相当する「絵引」を作成すべく、画像の分類と、その解析・解説に労力を費やした。この作業を円滑に進める上で、民俗学や民族学の調査成果が予想外に有効に応用できることが判明した。このような研究は、まだ層が薄く、研究方法論的に未熟な部分があるが、いちおう中国古代風俗史研究に新生面を拓いたつもりである。
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