研究概要 |
第1に中国の初期医療伝道の概況について考察した。中国における本格的な医療伝道の開拓は1830年代からであり、1838年に創設された中国医療伝道会は、中国医療伝道の漸進的発展における基礎となったものである。医療伝道は、宣教師のおかれていた環境によってさまざまな展開を示していたが、中でもホブソンHobson,B(中国名合信)は、中国の医学水準を高めることに重大な使命を感じ、中国人医師の養成や、中国語医学書の著作などに努力した。本年度は、ホブソンの中国語医学書の内容および特色について、従来の研究の上に新しい知見を加えてまとめ、同時にこれらの中国語医学書が幕末期のわが国に及ぼした影響についても考察した。 第2に入華プロテスタント宣教師が、中国人の間におけるアヘン禍の蔓延防止を目的として著作した中国語著作について考察した。清朝のアヘン対策は、民衆に対しては厳刑・峻法をもって威圧することが主眼であったと思われるが、宣教師の中国語著作に見えているアヘン対策は、第一は、アヘン禍の恐ろしさを認識させること、第二はキリスト教の信仰を持たせることによって、アヘン吸飲の誘惑より身を護らせることを徹底させることであり、第三には、アヘン中毒患者に対する治療・更生の法にも及んでいる。それぞれの宣教師がさまざまな試行錯誤のもとに最も効果的なアヘン対策書に作成しようとしていた努力のあとを良く示している。
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