研究概要 |
1 7年度の研究計画では,『史記』戦国初期部分の史科学的分析として,(1)『史記』の重層的成書過程を具体的に解明すること,(2)三晋・田斉関係記事の年代的錯誤を訂正すること,を予定していた。 (1)については,「史記原始-戦国期-」により戦国初期のみならず戦国期部分全体の分析を完了した。また同論文の論点を補強するため,「史記原始-春秋期-」「周太史讖言考」の二篇を執筆した。前者は『史記』の春秋部分を分析し,後者は,『史記』の年次に作為性の強い材料が混在していることを論じた。これら三篇は,8年度中に公刊したい。また,(1)に関連して,「『史記』と『春秋』」を公刊し,『『史記』を探る』(8年6月,東方書店刊行予定)を執筆した。また,「日本歴史学界の回顧と展望」を公刊した。学界展望の体裁を採るが,本研究の史科学的見地を踏まえている。 (2)については,三晋・田斉の年代的錯誤が従来主張されているような『史記』編纂段階の作為に基づくものではなく,『史記』が依拠した原史料それ自体の不備・破損に由来するものであることが確認された。 また,「秦史研究序説」『楚史研究序説』を公刊した。春秋期の秦・楚両国の世族を分析したもので,本研究の扱う戦国初期を考察する前提となる。 2 7年度の研究の結果,次の展望を得た。(1)春秋・戦国交代期における国君専権の構築過程を解明するには系譜史料の分析が有効であること。(2)『史記』の年代的錯誤を訂正する際,『竹書紀年』が用いられてきたが,従来の輯佚には問題があり,『竹書紀年』それ自体の復元が要請されること。この点に関連して,「後漢書西羌伝の先秦史認識」(9年6月,『東方学会創立五十周年記念東方学論集』に掲載予定)を執筆した。
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