1970年代以降、春秋・戦国両時代の研究は、資料的制約のため、春秋史は中原諸国・楚の国別研究に、戦国史は商君変法以降の秦史研究に個別化していた。本研究の目的は、この個別化状況を克服し、春秋戦国両時代をの通時的理解を図りつつ、全中国に普遍的な政治社会史的動向を解明することにあった。とりわけ春秋戦国交代期については、『史記』の極く簡単な年代記的記述に依存せねばならないが、『史記』戦国紀年の混乱がこれを拒んできた。研究代表者は、昨年度「史記原始-戦国期-」において、『史記』戦国部分の原資料の多様性および編纂の重層性を確認したが、本年度はこれを踏まえて、「史記戦国紀年考」を執筆し、戦国紀年の復元を達成した。これらの基礎作業によって、『史記』戦国部分を年代記的材料として利用することが可能になった。研究代表者は、すでに、西周晩期から戦国初・中期の中原の政治史を、覇者体制・世族支配体制の盛衰過程として通時的に理解しうること、さらに覇者体制から排除された秦・楚についても中原と世族支配体制の盛衰という視点で、西周晩期以降の推移を理解しうることを展望していたが、本年度は、この展望を踏まえて、「三晋成立考」を執筆し、春秋晩期および戦国初・中期における覇者体制の解体過程を具体的に解明した。さらに、世族支配体制解体後の、国君同姓分族と、遊士に代表される異姓臣僚のそれぞれの諸侯国統治機構に占める存在形態を分析した。とくに遊士に関する部分については、「孟子小考-戦国中期の国家と社会-」を公刊したが、さらに、「戦国初・中期の諸侯国国制」において分析全体の概要を摘記し、「三晋成立考」とともに、研究成果報告書に収録した。本年度の研究の結果、春秋晩期および戦国初・中期につき、全中国に普遍的な政治社会史的動向が解明され、従来の個別化状況の克服が一定程度達成された。
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