日独の繊維工業における大きな相違は、女子労働力比率である。日本の80%に対して、ドイツでは長い間、50%以下で、とくに製織は30%と低かった。 この違いの原因追求のために、プロト工業化時代からの連続性と繊維労働に付与されたジェンダー的意味合いに注目した。両国ともにプロト工業化の時代に農家の副業として営まれた家内工業は、ドイツではしだいに一家で従事する専業労働となり、日本ではもっぱら女性の家計補助労働だった。ドイツの繊維工業は職業資格の取得と結びついた手工業的な組織形態をとったり、あるいは男性が基幹労働、女性や子どもが補助労働を担うという形で男性的意味合いは付与されたのに対し、日本では名人と呼ばれても、専門職として確立されたわけではなかった。労働のジェンダー化は、機械化や新しい技術の導入の時期にも大きな影響を与えている。 次に工場法の制定過程におけるディスクール分析を通じて、労働力のジェンダー化について検討した。日独ともに、保護が必要な女性と不必要な男性の間には、脆弱/強靭、意志薄弱/団結、依存的・無知/自律的、家事/技術、国民の母/兵士といった差異化が行われ、女性の身体やモラルへの国家介入が正当化された。工場法は国民国家の時代、工業発展の時代に適合的な形でジェンダーを定義し、国家秩序、社会秩序、経済・労働秩序をジェンダー化された形で方向づける羅針盤となった。
|