本研究の目的は、まず歴史家ギボンの『自伝』に描かれた家系について、個別に事実の確定作業を行うことにあった。この作業は、曽祖父マシューまでのギボン家の系譜の確定・曽祖父マシューの商売と軍需局との関わりの解明、祖父エドワードの生涯と商業・金融活動の概要と社会的上昇の解明、父エドワードの議員活動と議決行動の分析の四点にわたる調査を必要とするものであったが、本年度は、このうち前二者について作業が終了し、「歴史家エドワード・ギボンの家系と曽祖父マシュー」の論考として成果を刊行することができた。その論文とその後の調査によって明らかになったことは、以下の点である。 1、歴史家ギボンの祖先は、『自伝』において述べられたロルヴェンデンのギボン家ではなく、ウェストクリフのギボン家で、曽祖父マシューは17世紀後半にロンドンにやってきて、リネン商を営み財をなした。2国事文書の大蔵府関係文書の中には、曽祖父マシューの名前の見える文書が数点あり、1680年と85年の文書から、マシューが軍需局との間で、リネン製の帆布を中心とした軍需貯蔵物資の取引を行っていたことが判明した。また86年の文書からは、マシューが関税局の委員を希望する請願を行っていたこと、彼がかつてロンドン市議会議員を務めていたことがわかった。さらに、86/87年の文書からは、マシューが、軍需局に属する技工として、3年間にわたり、タンジ-ル守備隊に対して物資供給と役務提供を行っていたことが明らかになった。以上のことから、曽祖父マシューは、歴史家ギボンの描くような一介の商人ではなく、軍需局と密接な関係を持つ御用商人であることが解明された。今年度の成果を踏まえ、さらに祖父エドワードと父エドワードの事蹟の調査に当たる予定である。
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