主として協会組織の文書集に登場する人名を手掛かりに、中世西ヨーロッパにおいて103名の「金持ち」さんの存在を確認することが出来た。彼らは特に紀元千年から200年の間に集中して現われ、フランス(90名)、イギリス(7名)、イタリア(6名)、ベルギー(5名)と広範に分布していたこと、更には金持ちとブルジュワの同義語化から、金持ちの誕生をヨーロッパ的現象として捉えることが許されるであろう。次に、史料に恵まれた6つの「金持ち」家を取り上げ、その出自、社会的上昇の経路、財産の内容を調べた。これらの金持ちは貴族とそうでないものの2つに分類され、貴族の金持ちの登場がそうでない金持ちよりも50年ほど早かったことが分かった。彼らは副伯以下の中小貴族に属し、カロリング体制を崩す在地の新興勢力として登場する。これらの貴族は貴族にとどまる家系と、都市ブルジュワとしての生活を通して、ギルド長、参番人、市長などの有力者となる家系を生み出していった。他方、ブルジュワとして登場する残りの金持ちは、貨幣を手段に社会的上昇を遂げた。成り上がり者であったと考えられる。彼らの出自は不明であるが、一部は商人・金融家、一部は聖俗領主の役人として登場する。彼らの子孫には、ブルジュワであり続ける道と、貴族の仲間入りをする道の2つが用意されていた。 こうして11、12世紀の西ヨーロッパにおいて中小貴族とブルジュワから成る金持ちの誕生が確認されたのであるが、これには貨幣が大きな役割を果していたと推定される。 これらの研究成果は6月発行の『産業経済研究』に掲載される予定であるが、今後はこれらの金持ちの誕生を生み出した心性、特に身分観、労働観、財産観に考察を加えようと思っている。
|