研究概要 |
本年度は特に金持ちの誕生を貨幣経済との関係で考察してみた。「金持ちの誕生(2)」では,人名に含まれる「金持ち」を手掛かりに,紀元千年頃から西ヨーロッパで金持ちが登場することを明らかにし,術語ブルゲンシスの普及との結びつきを確認した。「金持ちの誕生(3)」では,代表的な金持ち家系を取り上げて,それらの出現状況およびその後の発展過程を詳細に跡づけた。「金持ちの誕生(4)」ではローマ帝国の西と東において金持ち観に大きな違いがあることを検出し,ローマ・カトリック教とギリシア正教との教義上の違いとの関連性を予想した。「金持ちの誕生(5)」では11世紀の西ヨーロッパにおいて聖者の中に金持ちが加わったことによって金持ち観や労働観に大転換が生じたことを検証した。「金持ちの誕生(6)」では11世紀から貨幣経済が浸透し,支配の基礎が土地所有から貨幣に移っていったことを立証した。そして「金持ちの誕生(7)」では,金持ちが世俗領主や教会権力との関係の中で,どのようにして社会的上昇を遂げて行ったかを追跡した。 反省点としては,西ヨーロッパを対象としているため,論証の過程で地域差が出てしまったこと,東ローマ帝国への切り込みが不十分であったこと,貨幣経済へ発展に関して項目を増やし、多様な経営を盛り込む努力が不足していたことが挙げられる。
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