今回の研究では「ガリア・ナルボネンシスにおけるローマ化の歴史的過程」というテーマのもとに、帝政期ガリアにおけるローマ化の重要な側面である皇帝礼拝を取り上げ、その中心的な担い手であるアウグスターレースの実態を碑文史料を中心に検討した。 まず、ガリア南部の属州ナルボネンシンスの代表的都市であるナルボとネマウススのアウグスターレースを比較的検討することによって、彼らの都市におけるあり方を考察した。この考察によって、アウグスターレースのあり方は属州全体において画一的ではなく、各都市によって異なっている事実がありうることが明らかになった。とりわけ都市上層部である参事会員と一般市民との関係が異なることによってアウグスターレースのあり方も多様であることが示された。このようにナルボネンシスの都市におけるアウグスターレースについて、その関係碑文の検討は一応の成果をみた。しかしナルボネンシスのアウグスターレース関係碑文を検討していくなかで、隣接の属州ルグドゥネンシスのそれも合わせて考察しなければならない必要性が出てきた。というのもナルボやネマウススは、内陸部から地中海に注ぐロ-ヌ河を介して、ルグドゥヌムと密接に係わっているからである。 ルグドゥヌムのアウグスターレースに関する検討で明らかになったのは、この都市がガリア内陸部において、とりわけ経済の面において突出した優越性を他の都市に対してもっていた、ということである。とりわけ、ロ-ヌ・ソ-ヌ両河川の合流地点にあったカナバエ(商人定住地)を基地として、両河川及びその支流、さらには北部のゲルマン国境地帯や南部の地中海沿岸を活動範囲とする交易商人の存在が明らかになった。そして彼らのなかにはアウグスターレースとして活躍した人々もいた。
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