研究概要 |
今回の研究では、帝政期ガリアにおけるローマ化の重要な要因である皇帝礼拝を取り上げ、その中心的な担い手であるアウグスターレース(seviri Augusutales)の実態を碑文史料を中心に検討した。 まず、ガリア南部の属州ナルボネンシスの代表的都市であるナルボ(現ナルボンヌ)とネマウスス(現ニ-ム)のアウグスターレースを比較検討することによって、彼らの都市におけるあり方およびローマ皇帝との関連を考察した。それによれば、アウグスターレースはそれぞれの都市における有力な解放奴隷がその役職を担っており、彼らはやがて少くとも二世紀には都市参事会員に次ぐ第二の階層を形成するようになる。彼らのなかには名誉都市参事会員の称号をえるものもでてきており、この事実は彼らがのちに参事会員へ上昇していく可能性を示唆させる。すなわちアウグスターレースは帝政期とりわけ元首政期において著しい社会的身分上昇を達成するわけであり、かつての奴隷をその祖先にもつものが都市の中枢部分に進出するという事実のなかにわれわれはローマ化の一つの典型を見ることができる。 一方、アウグスターレースとローマ皇帝との関連に関しては、ガリア・ナルボネンシスにおいては具体的にそれを示すものは検証できなかった。この事実はしかしそれ自体ひとつの意味をもつものと思われる。というのも、従来これはアウグスターレースと皇帝のつながりが名目的なものと考えられてきたわけであるが、しかし、これは両者の距離が直接の言及を控えさせるほど、きわめて大きなものになっているとも考えられるのである。このことを類推させるものとして、ガリア・ナルボネンシスに隣接するルグドゥヌム(現リヨン)のアウグスターレースの事例(CIL XIII,1751、2世紀)がある。ここではアウグスターレースは雄牛の血を浴びる儀式(タウロボリウム)をおこなっている。このことは両者の関係が単なる儀礼的なものというよりもむしろ、呪術的な意味合いを帯びてきていると考えられる。
|