本研究は、近代イギリス、とりわけスコットランド統合期前後の両地域の家族に関して、当時の社会との関連において歴史的に再検討した。平成7年度の研究においては、イギリスのジェントルマン社会における家族の様相、各階層相互間の結婚と社会移動、家父長制、パターナリズム等の問題を検討した。ジェントルマンの都市化に伴い、地方権力が教区ジェントリや牧師など下位の家族に移り、パターナリズムも衰退する。地主のレントナー化は、農村や都市の家族構造をも変え、近代家族の成立、早婚化、人口増加等を生みだす。8年度は、イングランドとスコットランドの家族の比較研究を進めた。18世紀のスコットランド低地地方では西欧と同じく20代半ばに結婚したが、高地地方や島嶼部では、結婚類型は南欧・東欧に近く、女性の初婚年齢は10代の後半で出生率も高かった。高地地方ではクラン相互の結婚は親族・家族が決定した。女性は結婚後も旧姓を維持し夫婦別姓がみられたが、やがて夫婦同姓の習慣が生じ、18世紀後半までに一般的になった。1707年の合邦以降、貴族や大地主は所領経営を低位の地主に任せ、英蘇双方のエリートの接近が進み相互の結婚も増加した。9年度には、スコットランドの家族・結婚制度の研究を進め、クラン社会や各地域の家族の実態分析を行なった。18世紀には高地地方以外の相手との結婚比率が増え、商業化の波はクラン社会を変質させ、タクスマンも排除される。またハードウィック法制定の契機となった、不規則婚や婚外出生の実態に関して、スコットランド各地域別に分析し、全体的には婚外出生率がイングランドより低く、高地地方では徐々に減少した一方南西部では全般的に高く、18世紀後半には急激に増加したことを明らかにし、婚外出生率と教会統制等の社会的背景との関連を再考察しながら、家族、結婚の実態を歴史的に究明した。
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