研究概要 |
研究代表者坂井は前5世紀の社会変動の前提としてカンパニアにおけるエトルスキ勢力の伸長に研究の焦点を絞り,エトルスキ人の支配の様相を,その最南端に位置するポンテカニャ-ノ遺跡を中心に研究した。この遺跡を調査しているサレルノ大学およびナポリ東洋大学の研究者と連絡を取り,発掘の状況やエトルスキ人と土着の種族との間の関係等について,情報の提供を受けた。その結果,この時代の社会構造に関する通説的見解として一般に理解されているところである,異なる種族が棲み分けて居住していたモザイク的構造ではなく,ある墳墓群に異なる種族が共存して埋葬されている例に見られるように,ナポリ湾沿岸部に植民市を形成したギリシア人をも含めた,種族の差を越えた古代カンパニアの文化的一体性を強調する新たな知見を得ることができた。今後の研究課題としては,前6世紀における都市の出現前後の社会・経済構造の分析が必要である。分担者浅香は文献史料を中心にして,イタリア半島への東方文化の伝来の時期およびその様相,ギリシア人の南イタリアおよびシチリア半島への植民,またエトルスキ人のカンパニアへの進出に関する研究を行い,これら一連の歴史事象に関連性があるかどうかを考察した。今後の研究課題として,エトルスキ人のカンパニアからの後退や彼等が土着民に与えた影響,とりわけク-マエ沖海戦にいたるギリシア・エトルスキ両陣営の政治史的な動向に関してに考察する必要がある。
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