研究概要 |
本研究は、中緯度地域における後期旧石器時代後半の人間集団の文化的適応様式に焦点をあてる比較文化的研究の一環である。東北日本・南西フランス(マドレーヌ時代)・北米プレン-ズ地域(パレオインディアン文化)の石器文化を比較の対象とし、実際の発掘資料と各国の文献資料を総合的に考察してきた。以下、成果報告書の目次順に述べる。 1)石器群の空間分布と人間活動との関連について、「管理的技術」「便宜的技術」などビンフォードの「技術的組織」概念を媒介に、遺跡内の「場」の機能を理解する研究法を論じた。 2)11,500年前を画期に人類の急激な拡散が起こった北米大陸における、パレオインディアン文化の適応戦略について論じた。大平原地域(ミルアイアン遺跡等)の事例により、生業面では野牛を主とする大型動物狩猟への特殊化、技術面では高度に移動的な居住様式を保障するシステムの発達を考察した。 3)東日本後期旧石器時代の社会構造復元のための若干の前提を述べた。 4)人類学における狩猟採集諸民族の研究と旧石器時代研究との関連について考察した。 5)広大な分布範囲をもつマドレーヌ文化の、フランス、スペイン、ドイツの各地域での生活様式の多様性を認識し、遺跡構造と生業経済の分析に基づき提出された居住様式モデルについて、人間集団の文化的適応戦略という視点から検討した。遺跡の性格・生業・季節性・活動の場・石器群の分布等の資料が重視される。また方法論的には後期旧石器時代の遺跡構造分析と適応戦略の研究を関連させ、ビンフォードの「民族考古学」の具体的応用を論じた。 6)筆者が以前に参画したストラウスによるドゥフォール岩陰(フランス)先史学プロジェクトの資料を、遺物の空間分析と人間活動、また遺跡構造の形成過程という観点で分析した。なお、当面の目的に含めていた蔵王山東南麓の調査は旧石器遺跡探索が不調の結果となっており、今後さらに追求を進めたい。
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