房総の海食洞穴遺跡の解明をテーマに、1992年の分布調査・測量調査以来、館山市大寺山洞穴の発掘調査を実施し、1996年からは本科学研究費を充当して調査を進めてきた。これまでの調査の結果、3つの洞穴のうち第1洞で検出した古墳時代の舟葬墓は、海食洞穴を墓域としたきわめて珍しい遺跡であり、かつ丸木舟を使用した舟葬例として全国的に注目されるところとなっている。こうした本遺跡の重要性に鑑み、遺跡・遺物の保存活用の観点から、千葉県教育委員会および館山市教育委員会の協力を得て今日の調査に至っている。 大寺山洞穴は洲崎半島の基部に位置し、館山湾に突き出た丘陵西側裾部に立地する。3つの洞穴が開口しているが、いずれも「縄文海進」により形成されたものである。標高は約30mを測る。 第1洞で検出した12基以上の舟葬墓は、東国の大古墳から出上する副葬品と比べても遜色のない抱負な副葬品をもち、「海」を他界観した特殊や葬法が古墳時代に形成されていたことが判明した。おそらく、生業を「海」に求めその航海術を生かして活躍した安房の海人族の長の墓であったと考えられる。なお、第3洞からは城門時代の漁労活動の実態が明らかになり、先史時代から古代に至る海を生業とした安房の伝統的な生活・文化様式を解明できた意義は大きい。
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