式年造替の目安とされる20年程度では柱に顕著な腐朽は認められず、また古記録からも掘立柱式の神社建物は実際は30〜40年以上存続し、その最高記録は60年にも達することが知られた。 宮殿・官衙遺跡では、天皇の即位や制度の改革に伴う改築や礎石建物への改変がかなり頻繁に行われたこともあり、式年造替を原則とする神社とは異なる様相が認められた。また、史料が乏しい宮殿・官衙遺跡では、その存続期間を正確には把握できないという限界もつきまとう。しかし、遺跡全体の存続期間とその間における遺構の変遷時期を概観すると、その多くは7世紀後半から8世紀後半、あるいは7世紀末〜8世紀末というようにおよそ100年前後存続したことが知られるが、その間に3〜4期ほどの変遷が認められる遺跡が多い。単純に4期としてその存続期間は25年、3期として30数年という数値が得られる。したがって、個々の遺跡における細かな存続期間の検討はなお残されるものの、基本的にこれら宮殿官衙遺跡の掘立柱建物の耐用年限は25年以上と考えられ、中には30年を超えてなお存続した建物もいくつか存在したと推測されるに至った。 伊勢神宮の場合は、史料の検討によって掘立柱の耐用年限を35年前後とするデータが得られた。このデータと、全国の宮殿・官衙遺跡の調査結果にもとづく耐用年限である30数年というデータは接近しており、これを掘立柱建物の耐用年限は何年かという課題の結論とすることができる。
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