平成7年度は研究の初年度であり、中国地方・近畿地方の縄文時代草創期および早期の石器資料の収集を重点的に進めた。この地域で発掘調査報告書などに資料の内容が公表されている遺跡については、その報告によって遺跡の石器組成などのデータの収集を行い、遺跡毎の石器群の特徴の把握に努めた。内容の未公表の資料や、報告の不十分な遺跡については石器の実物の調査を実施した。資料収集した各地の概要は以下のとおりである。 中国地方では草創期には石器組成を検討できるような内容を備えた遺跡はほとんどない。しかし山陰地方で島根県堀田上遺跡・今佐屋山遺跡・鳥取県上福万遺跡など早期の資料は最近増加しており、この地域の石器群の様相を明らかにする重要な成果が得られている。また山陽地方では広島県帝釈峡遺跡群や岡山県黄島貝塚において得られている資料はいずれも量的に安定しているとはいい難く、標識的な資料とすることができないが、当該時期の石器の様相をある程度明らかにすることができる。近畿地方およびその周辺では、和歌山県野田藤並遺跡・福井県鳥浜貝塚・奈良県桐山和田遺跡などの草創期の内容のある資料が蓄積されている。早期の遺跡の集中度が高い近畿地方では特に押型文土器期のものが充実しており、大阪府神並遺跡・三重県西出遺跡などでは量的に安定し、しかも時期的なまとまりが保証できる石器データが得られている。 以上、組成比較が可能な良好な資料を中心として収集した現段階では、近畿地方においては草創期の石器組成は多地域とはやや特異な構成となっていることが明かとなってきた。早期では同時期の遺跡間でも石器器種の構成違いや、石器組成の器種別多寡など内容に差がある事例が多くみられることが判明してきた。今後、未調査地域の資料集成を進めるなかで時期・地域による石器群の違いの起因を探ってゆくことになる。
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