この研究は、文献と方言との対照から、格助詞の歴史について考察するものである。 今年度はまず、「が・の」格について、文献国語史による変遷と、国立国語研究所『方言文法全国地図』とを比較し、中央語の歴史が方言にどう反映されているかを検討した。そのために、地図項目のデータをパソコン上で総合する試みを行なった。また、上記の考察を補うために、方言上重要地点の臨地調査を実施した。特に、愛媛県北宇和群日吉村方言は、主格に「ガ」「ン(<ノ)」の両者が使用されるのに対して、連体格では「ン(ノ)」のみが用いられ、また、準体助詞として「ンガ(ノガ)」が使われるなどの特色を有しており、歴史的な位置付けが注目された。 「に・へ」格については、特に方言形「サ」の類に注目して調査・考察した。「サ」の類は、東北方言や九州方言で使用されているが、前者がもっぱら格助詞として機能しているのに対して、校舎は接尾辞的機能を合せもっている。文献国語史による中央語の「サ」の類(具体形には「さまに(・へ)」)と比較すると、九州方言はかつての中央語の状態をよく保存するのに対して、東北方言はそれからの逸脱が著しく、格助詞として大きく意味発達を遂げていることが明らかになった。また、関東方言にも「サ」の類はわずかに残存するが、これが九州方言と類似し、東北方言の直接の基盤になったことも明らかにした。これらの点については、平成8年度秋季国語学会で口頭発表し、『国語学』188集などに論文化した。 来年度は、最終年度であるため、補充調査などにより不足部分を補い、総合的な報告書を作成する予定である。
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