この研究は、格助詞の歴史について、従来から研究の進んでいる文献国語史上の成果に方言学の立場から、(1)『方言文法全国地図』とその補足調査結果の通時的解釈、(2)体系上重要地点における記述的調査の結果の分析という2つの成果を提示し、それらを対照・総合することにより、全国規模の歴史を構築することをめざした。 まず、「が・の」格については、文献国語史による変遷と、国立国語研究所『方言文法全国地図』とを比較し、中央語の歴史が方言にどう反映されているかを検討した。そのために、地図項目のデータをパソコン上で統合する試みを行なった。また、上記の考察を補うために、方言上重要地点の臨地調査を実施した。 次に、「に・へ」格については、特に方言形「サ」の類に注目して調査・考察した。「サ」の類は、東北方言や九州方言で使用されているが、前者がもっぱら格助詞として機能しているのに対して、後者は接尾辞的機能を合せもっている。文献国語史による中央語の「サ」の類(具体的には「さまに(・へ)」)と比較すると、九州方言はかつての中央語の状態をよく保存するのに対して、東北方言はそれからの逸脱が著しく、格助詞として大きく意味発達を遂げていることが明らかになった。また、関東方言にも「サ」の類はわずかに残存するが、これが九州方言と類似し、東北方言の直接の基盤になったことも明らかにした。 当初の計画では、格助詞体系の全体を扱う予定で作業を進めてきたが、結果として、一部の格助詞を中心とした報告に留めざるを得なかった。研究を継続し、近いうちに、格助詞体系の全体に迫る結果をまとめたいと考えている。
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