山形県内陸部にいまも伝承されるデロレン祭文について、とくに十三代目計見八重山(本名、山口左仲氏、東置賜郡白鷹町)の伝承を中心に考察した。同氏の公演に立ち会ってフィールド調査を行い、録音・映像資料を作成するとともに、各地の教育委員会(公民館)、個人等が所蔵する過去の伝承者(複数)の録音資料を入手した。目下、それらをテープから字起こしして、語りの定型的要素すなわち決まり文句(フォーミュラ)と旋律型(メロディ・タイプ)の析出を試みている。定型的要素の現れ方を検討することで、デロレン祭文における口頭的構成法(オーラル・コンポジション)の仕組みについて検討している。 デロレン祭文の隣接芸能として、とくに九州の座頭琵琶や北陸のチョンガレ(五色軍談)について比較・検討した。オーラルな語り物には、大別して叙事的/場面構成的という二種類の演唱ヴァージョン(語り口)がある。それを適宜使い分けて、語り手はさまざまな語りの機会に柔軟に対応するのだが、そうした語り口がデロリン祭文にも共通することを、今回ほぼ確認することができた。 東北、北海道、および九州各地の図書館で郷土史関係の資料を調査し、かつてのデロレン祭文の全国的伝播の実態について調査した。とくに北海道南部(江差周辺)のニシン場が、デロレン祭文の有力な伝播圏であったことは、今回はじめて知ることができた。
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