研究概要 |
平成8年度は、本研究の第2年次として、都賀庭鐘・建部綾足・上田秋成の三人の、文学以外の芸術活動と、それぞれの属した文壇および交友関係の資料について、調査を集中的に行った。その結果、以下の新たな知見が得られた。 1,庭鐘における『全唐名譜』『漢季章譜』等の印譜の刊行、投壺への興味、香や茶に詳しい大枝流芳との交友は、庭鐘の中国文人趣味を示している。読本という中国趣味の新しい小説形式の創始には、こうした庭鐘の嗜好が濃厚に反映している。 2,綾足における絵画への傾倒は、『寒葉斎画譜』をはじめとする画譜の刊行や俳画制作から明らかであるが、片歌唱道後における俳画は、特に文学と絵画の融合を端的に示している。綾足の場合、俳諧(片歌)の門人と絵画の門人がかなりの部分で重なり合うこともあり、俳諧の派閥経営の方策としての絵画という意味合いも小さくはなく、単に文人趣味の俳諧師として絵画と俳諧を両立させた一例というにとどまらない問題を提起している。 3,秋成における煎茶は、基本的に和学系文人である秋成の、中国文人趣味的な部分と見なされる。煎茶は、文人グループの交際の媒介となる随一の趣味であり、村瀬栲亭・世継寂窓らとの交際もこれによって深まり、晩年の歌文創作や画賛制作、また『背振翁伝』等の小説執筆にまで、直接・間接の大きな影響を与えている。
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