研究概要 |
平成9年度は、3年間にわたる本研究の最終年度として、都賀庭鐘・建部綾足・上田秋成という三人の文人の文学論関係の史料の調査を行い、あわせて一昨年度及び昨年度に主として調査した、学問・芸術・交友関係の補足的な資料収集を行った。その結果、以下の知見が得られ、また三人のうち最も典型的な文人と思われる上田秋成の業績を、略年譜の形に整理し、研究成果報告書としてまとめた。 1,三人はいずれも、韻文と散文(読本)の両方に手を染めているが、俳諧・片歌・和歌等の韻文については、体系立っているか否かは別として、著述中から文学論を抽出することが可能である。それに対して、散文については、わずかに秋成の寓言論的創作観を除いては、まとまった形では文学論を抽出しえない。文学論が、韻文中心に発展してきたという歴史的な背景とともに、文学の中では小説よりも詩文を重んじる、伝統的な文人意識の拘束が、この三人にもあったことをうかがわせる。 2,漢詩・狂詩に親しんだ庭鐘、当初は俳人として出発しながら後に片歌に転じた綾足、俳諧・和歌・狂歌にともに力を入れた秋成と、韻文との関わり方は様々であるが、いずれも俗文学・雅文学の双方に関心を示している。ただし、結果的には三人とも、俳諧・狂詩などの俗文学よりは、漢詩・片歌・和歌等の雅文学に比重を置いている。これも文人特有の離俗意識の影響と思われる。 3,三人が多芸を旨とする文人であり、様々な活動のうちの一つとして文学に携わったことが、職業作家・職業歌人らには不可能な、清新で柔軟な文学論を展開することができた理由であり、秋成の寓言論的小説論・和歌本質論や、綾足の片歌論などは、この多芸をよしとする文人意識があって初めて可能となったものである。
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