前年度に引続き、次の2点を中心に研究を推進した。 (1)往生伝関係資料の調査・研究 (2)『三国往生伝』その他の中世往生伝の研究 (1)の往生伝関係資料の調査・研究では、中世往生伝との関わりから、解明が必要な近世往生伝を数点調査した。特に『唐土往生伝』(寛文5年刊本・内閣文庫及び飯田市立図書館蔵)については、資料の翻刻を手始めに具体的な内容の解明と分析を開始した。 (2)の『三国往生伝』その他の中世往生伝の研究については、『三国往生伝』を所載している『普通唱導集』について、その形態と内容、編集目的等の基礎的な分析を行い、『三国往生伝』が唱導の資料集として採録されていることを明らかにした。つまり往生譚は唱導に際してのタネ本の役割を果たしていることになる。それは同時に仏教における唱導と往生伝の関係を明らかにしたことでもある。 次に『三国往生伝』の依拠資料の分析、主として「震旦往生人」の部と中国における往生伝・僧伝との関係を分析した。『往生浄土瑞応冊伝』に依拠していることがほぼ明らかである。しかし具体的な依拠の方法、依拠の基準や表現の問題は、今後の課題である。 往生伝と考える作品の調査・発掘の研究、個々の作品の基礎的な研究を積み上げることによって文学史上への位置付けにアプローチしたい。
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