本研究は、課題名の示すごとく二つの目的を意図したものである。一つは源氏物語の享受資料の収集・調査・研究であり、他はその享受影響年表の作成である。 前者においては大略以下のような成果を得た。 (1)新たに、中・近世の源氏物語享受資料二十数点について調査・紹介した。とりわけ昭和初期から伝本不明とされていた猪苗代兼載自筆の『源氏一部抜書』の発見や、『源語類聚鈔』及び『紫史吟評』の著者自筆稿本を紹介できたことは、予想外の成果であった。また、中院通勝筆『源氏物語絵詞』や住吉如慶画『源氏物語画帖』は美術史上においても貴重な資料となるはずである。 (2)近世出版の享受資料九十点余りについて調査した結果を解題としてまとめた。 (3)江戸時代から明治にかけての錦絵中の「源氏絵」を、初めて享受資料として取り上げ、約五百点余りを調査し、錦絵「源氏絵」目録を作成した。 (4)享受の対象を趣味・遊戯資料にまで広げ、源氏流生花書や双六・かるたの類の収集・調査を行い、その解題・目録を作成した。 なお、以上の成果は『源氏物語の享受資料-調査と発掘-』として公刊した。 後者については、約二千枚のカードの整理をほぼ終え、さらに在外資料や古記録資料を増補しつつある。『年表編』『資料編』の二部に分けて原稿化を進めており、可能な限りの享受記録を収載した『源氏物語享受影響年表』の完成を目指している。
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