『和歌一字抄』は、院政期の歌人歌学者として著名な藤原清輔が撰集した和歌の集成である。従来、和歌文学史の中での評価は、作歌のための手引書と考えられることが少なくなかった。しかし、題詠が詠歌の第一義的手法とも言われた院政期の歌壇にあって、歌学書としての評価はもちろん、六条藤家としての位置づけにも関わる重要な和歌文学作品である。 本研究は、平成7年度より平成9年度まで、この『和歌一字抄』のデータベースを構築することを主眼として進めた。 データベースを構築するための基礎的研究から進めてゆくことにした。先ず、『和歌一字抄』の伝本について検討をすすめた。『和歌一字抄』の伝本は、収載されている和歌や歌人などにより原撰本、中間本、増補本と大きく三系統に分類することができる。これらの中から増補本系統の伝本を底本としたデータベースを構築することにした。いくつかある増補本系統の伝本の中から、現在善本とされる宮内庁書陵部蔵本(函架番号150・653)を底本とすることにした。この底本について、底本に忠実に翻字して作成した底本本文ファイルと、仮名遣い、用字法などについて検討して作成した校訂本文ファイルの二つの和歌本文ファイルを作成することにした。そして、この二つの本文が随時対応できるとともに、紙焼き写真の和歌本文を画像として閲覧できるデータベースを構築することにした。また、検索対象となる本文は、仮名遣い、用字法などについて補訂した校訂本文とした。検索対象項目は、歌語、歌人、歌題、集付を主要項目として考え、これらの項目ごとに単独および複合検索が可能となるデータベースを構築した。この結果、和歌の用例検索が単独および複合検索ともに容易になったことについて主要な点を以下に摘記しておく。 1.研究対象となる歌人の和歌 2.研究対象となる二つ以上の歌語が詠まれている和歌 3.他の歌集や作品の収載歌 4.研究対象となる言葉が含まれている歌題とその和歌 5.和歌ごとの伝本の紙焼き写真の画像 6.検索結果への標目表示 本研究は、宮内庁書陵部が、電子出版について翻刻を許可した最初の研究ともなった。
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