漢訳仏典が中国口語史を考察する際に、重要な資料となりうることは近年定着してきた感があるが、その量が膨大であることに加えて、翻訳された時代の確定や、流伝の過程での変改等に注意をはらう必要があるので時代決定の基本資料とするには慎重さが必要である。鳩摩羅什訳の諸経のうち、『妙法蓮華経』(『法華経』)は文献学的研究が比較的進んでおり、口語研究の資料としては適したものの一つである。 敦煌文献のなかにも大量の『妙法蓮華経』の筆写本がある。今回はペリオ文書に収められている同経をパリ国立図書館発行『Catalogue des Manuscripts Chinois de Touen-Houang』【I〜V】(1970-1995)によりながら、『敦煌宝蔵』(全140巻、台北・新文豊出版公司、うちペリオ文書は112〜140巻)を参照してその実姿影印を確認し、さらに岩波文庫版『法華経』のどの部分にそれが該当するかを注記した。
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