本年度は主として1)中国音楽関係の資料の収集と読解、2)日本雅楽関係の資料の収集と読解という基礎作業にあたった。また3)雅楽の上演の参観4)中国音楽に関する絵画・工芸品などの参観にもつとめた。さらにこれらと平行して5)中国の文学と音楽の関わりを、古代にさかのぼって考察する作業を進めた。1)から4)は、まだ基礎作業の段階にあり、今年度新たな知見が得られたのは5)の分野である。研究の結果、中国の韻文は漢代以降、音楽とは切り離されたものである「詩」と、楽曲から発達したもう一つのジャンルという二種によって構成されてきたことが明確になった。すなわち、漢より中唐は詩と楽府、晩唐より南宋は詩と詞、元以降は詩と曲である。これら二種の韻文は、それぞれ異なる二種の表現機能をもち、各時代の人間の精神を相互補完的に表現していた。そして音楽に関わる一つのジャンルの交替期は、思想史上の転換期にあたり、中国の思想文化史上、音楽のもつ意味が大きく変化したことを物語っている。 このような考察の結果は、『中国思想史入門(仮題)』(東大出版会、1996年刊行予定)の「詩」の項にまとめた。
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