本研究は、我が国の雅楽が中国では失われた唐代音楽の原型をかなりの程度保存している事に着目し、これを資料に中唐に起こった新しい韻文「詞」の源流を考察することを目的に、平成7年度より開始した。日本雅楽に関する各種の資料と中国の古文献の記載とを総合的に対照した結果、次のような領域で成果を上げることができた。 (1) 古楽譜・舞譜の解読に関する問題ー日本雅楽の基礎的事項を学ぶ中で発見した、古楽譜・舞譜の各種記号の解釈や調性等の問題に対し、日中双方の研究を結びつけることによって解決を試みた。「関於古楽譜解読的若干問題」、「天平琵琶譜“番仮崇"調性新探」及び「敦煌舞譜的対舞結構試析」の3篇の論文が、その成果である。 (2) 曲調と曲辞に関する問題-詩のように一句の字数が一定していない詞は、どのような音楽的背景から生まれたかを、古楽譜を通して考察した。本研究の当初の課題に対する一つの解答となるもので、論文「従古楽譜看楽調和曲辞的関係」がその成果である。 (3) 日本雅楽と隋唐舞楽に関する問題ー「蘭陵王」など日本雅楽のあるものに対しては、従来インド起源説が唱えられてきた。中国の文献に対する精査に基づき、従来の説を検討し、さらに雅楽の全ての曲について隋唐の音楽・文学・及び歴史とのとの関わりを考察した。この成果は(1)(2)で挙げた論文と合わせ『日本雅楽和隋唐楽舞-隋唐五代楽府文学背景研究-』という一冊の著書として、日中両国で出版する予定である。平成11年2月現在、第一稿が完成しており、今後さらに検討を重ね、2000年度の出版を目標としている。
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