本研究は、科挙における試帖詩の復活とその清朝の文化に対する影響について解明することを目的とするものである。初年度においては、 1、書誌学的アプローチとして、これまでに充分に調査の行われてこなかった清朝における試帖詩の総集や科挙の受験参考書について、国立公文書館内閣文庫、国立国会図書館支部東洋文庫、名古屋市蓬左文庫、京都大学人文科学研究所東洋文献センター、大阪大学文学部懐徳堂文庫、慶應義塾大学付属研究所斯道文庫、神戸市立図書館吉川文庫を訪ねて調査を行い、目録作成の基礎資料の収集に努めた。科挙の受験参考書については、明朝、清朝の連続性も考慮し、一括して調査することとしたが、四書についての科挙の受験参考書は、日本における収集量が極めて多く、別個に調査計画をたてることとした。今年度は、まず、試帖詩及び歴史関係のものに重点を置き調査をおこない、重要なものについては、名古屋市蓬左文庫を中心に、マイクロフィルムによる収集をおこなった。 2、上記資料について、分析研究を行い、科挙における試帖詩の復活とその清朝の文化に対する影響について、解明を行い、研究成果として、「琉球詩課と試帖詩」(『鹿大史学』43号、1996年)を発表した。「琉球詩課」とは、清朝後期、北京で出版された琉球人の詩集で、2巻本、4巻本の2種があり、科挙受験のための特殊な詩形「試帖詩」による詩を集めたものである。上記論文は、中国における科挙と試帖詩の歴史、清朝における試帖詩復活の意味及び東アジア全体の影響を与えた科挙制度の琉球に対する影響関係を論じたものである。
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