3年計画の研究の初年度として、本年度はテキストの入手と整理に力を注ぎ、書誌学的な調査を行った。 『万国史』はイギリスの知識人が世界を理解して行く上で重要な位置を占めたと思われる出版物であるが、その概要がわが国ではまだ知られることが少ない。本書は、発行年と標題から大きく2種に分かれている。1736年から1744年に出版された7巻9冊は、「古代編」とも称すべきもので、扱いに地域的・時間的な偏りが見られる。すなわち、ヨーロッパと中近東の古代が中心で、中国、インド、アメリカは最後の巻に申し訳程度に触れられているにすぎない。一方、1759年から1766年にかけて出版された17巻は、標題に『現代編』と記され、先に出版された『万国史』の続編として企画されている。すでに「古代編」の先例があるために、『現代編』のほうは企画が遠大で、地域として中部アフリカ沿岸、西アジア、インド、中国、、日本、東南アジア、南北アメリカをも包含している。 書誌学的に見ると、フォリオ版皮装平均四百数十ページの豪華版であり、出版社の意気込みが感知されるが、編纂の不手際を示す落丁、ページ付けの混乱が見られ、内容の限界が推測される。これは、まだその企画を裏付ける力量が十分ではなかった証左であろう。しかし19世紀にイギリスの諸百科辞典で世界各国の記述が整い、諸学者の研究が発展していったのは、本書の出版の力が大きいと推測される。 編纂者については、トバイアス・スモレット以外に、ジョン・キャンベルとジョージ・サルマナザ-ルについて調査し、その概略を知り得た。
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