研究概要 |
世界初の全世界史と言える『万国史』(Universal History,1736-66)において文明はいくつかの観点から捉えられており、多義的な概念となっているが、それを整理すると以下のようになる。 1.キリスト教中心主義的文明観 『万国史』は旧約聖書の天地創造神話を宇宙生成論として採用しており、その歴史記述の根本枠組みにキリスト教史観をもっている。したがって、キリスト教を受け入れている地域の文明を高く評価し、異教を信ずる文明を批判する傾向がきわめて強い。特に、イスラム教に対しては蔑視ともいえる厳しい姿勢が顕著である。 2.進歩史観的文明観 人間社会は未開から文明へと発展しており、その進歩の程度はいくつかの尺度によって判定可能であるとの考えによって文明をとらえる見方である。この観点があるため、『万国史』ではさまざまな地域を記述するのに、農業、技芸、工業、貿易、保健衛生、政治体制、行儀作法、勤勉さ、学問、の実状を記述し、文明の進歩の程度を判定している。 3.帝国主義的文明観 世界各地の産物を記述する際に、イギリスにとってその物産がどのような意味を持ちうるかを前提しているところがあり、ここにはすでに後の帝国主義の眼差しがあると言える。進歩した文明を持つ国民が野蛮な人間から世界の宝を守り、その適切な使い方を示してみせるとの考えである。 普遍主義的文明観 帝国主義的な文明観がある一方で、それぞれの文明をその独自性において捉えるという考え方も兆している。スイスや日本の文明の評価にそれが著しい。 『万国史』の文明概念は多義的であるが、以上の4つの文明観の複合概念であり、その範囲が明確に限定されている。そのために「未開」地域に対してはきわめて理解が浅く、それらの文明の地球環境にもつ意義がまったく無視されている。
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