責任研究者(杉山)はアメリカ合衆国のエスニック女性によるさまざまな作品および作品に関する文献を収集し、アメリカ国内における研究の動向を把握することができた。また主に英語圏におけるフェミニズム批評の近年の業績についても研究した。その結果、文学における母娘関係に関して、特にフェミニスト精神分析の視点を取りいれた成果があがっていること、しかしながら、エスニック女性に関する研究は少なく、フェミニズム批評自体に対する批評がその点から盛んに行われていることを理解した。また母娘関係に関しては母親の視点から書かれた著作が少なく、そのような著作に対する有効な批評の方法が確立されていないこともわかった。そしてエスニック女性の作品をこのような観点から研究することで、従来普遍的と考えられていたフロイト的(あるいは核家族的)モデルの中の母と娘の関係を、批判的に考察することができるのではないかという展望を得た。 以上をふまえた上で、エスニック女性の文学を批評する際、母親の視点から語られた母娘関係に焦点をあてることが重要との認識から、母の立場から語られたエスニック女性の作品、特に日系のヒサエ・ヤマモトの短編と、アフリカ系のトニ・モリソンの長編『ビラブド』に関して研究発表、論文執筆を行なった。それぞれの論文から、いわゆる白人中産階級の家族モデルがあてはまらない場合の「母親」の視点が、文学的語りにおいてどのような役割を果たすかという共通のテーマが浮上し、このテーマを中心に、まとまった業績をまとめる(英語による学位論文程度の長さ)展望を得た。
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