研究概要 |
本研究の目的は16世紀イギリスの文豪、ウイリアム・シェ-クスピアが19世紀アメリカの作家、ハーマン・メルヴィルに与えた影響を主として文体面から探ろうとしたものである。すでに、前野繁との共著A Melville Lexicon (Kaibunsha, Tokyo, 1984)ならびに"メルヴィルの複合語について"(Kobe Miscelanny, No.15, 1989)において指摘したようにメルヴィルの英語の特徴として、多彩な複合語の使用ならびに造語がある。しかしながら多彩な複合語の使用や造語がメルヴィルの英語文体の特徴をなすのか、19世紀ニューイングランドを中心に活躍した,E.A.Poe, R.W.Emerson, H.D.Thoreau, N.Hawthorneにも見られる当時のアメリカ作家の共通の特徴であったのかを明らかにするため、複合語のうちから(1)複合名詞、(2)複合形容詞を文法的ならびに意味的構造の型に分けて調査した。次にシェクスピアがメルヴィルに与えた影響を複合語ならびに一般的観点から調べた。調査対象としたいわゆるボストン版シェ-クスピア全集は1795年以来アメリカで発行されたシェ-クスピア版のなかで初めて編者がオリジナルテキストに注意を払った、1623年のフォリオ版に基づいて発行された画期的な全集であり、1836年以来37,39年と再発行されたばかりでなくそれ以後も出版年次や発行所を明記せずにしばしば発行された版であることが判明したこと、メルヴィルの作品中でのシェ-クスピアの言及はMoby Dick, Pierre,Confidence-Man, The Piazza Talesの順となり、Moby Dickが群を抜いて多いこと、Sh.の作品ではボストン版7巻目に収められたHamlet, King Lear, Romeo and Juliet, Othello, 6巻目のCymbeline, 3巻目のMacbethの順で多い。しかしながらもっとも多いHamletでの複合語使用には特徴が見られず文体的にメルヴィルが影響を受けたとは断定できなかった。岡村俊明の研究(平成7年度文部省助成出版)との比較研究が必要であろう。。
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