本年度においては教養小説と同義語として使用されてきた「従弟小説」の再定義のための基礎的な調査研究を行った。第一にコンピュータの導入によって大量のテキストデータのOCRによる入力を行った。同時にインターネットに公開されている電子化テキストをダウンロードした。これらを基本的な従弟小説のテキストデータベースとするべく編集作業を行い、現在も続行中である。その他図書資料の補完的収集と調査を実施した。研究の過程で従弟小説の源が小説の勃興の時代よりも更に遡ることが認識されるに至り、十七世紀の演劇を研究対象に新たに加えることになった。十七世紀初頭のDekker等の都市喜劇には、すでに従弟が登場して重要な役割を果たしている。特にThe Shoemakers' HolidayとEastward Hoは、十八世紀の小説勃興期におけるThe London Merchant、さらにDickensのGreat Expectationsにつながる要素を備えている。これらの事実の確認が本年度の最も大きな成果と考えられる。この結果演劇テキストのデータベース化の作業も開始することとなった。また、犯罪と従弟との関係については、特に十七世紀後半から十八世紀初頭にかけての犯罪者の伝記の検討によって、知見を深めた。Defoeの小説が女性を主人公とすることから考えられる、性の資本化の問題と、従弟の持つ社会的意味の比喩的な拡張が必要であることが認識された。このことも劇場閉鎖以前の都市喜劇の中にその起源を探ることができる可能性が明らかとなった。 これらの研究成果から次年度以降においては、特に十七世紀初頭からの英国都市喜劇及び都市悲劇とも言うべきNicholas Roweの諸作品なども対象に加えて、より広範囲に従弟の問題を研究することが計画されている。
|