今年度は本研究プロジェクトの最終年度にあたるため、研究成果のとりまとめと論文執筆に主たる努力が傾注された。過去二年間の研究によって蓄積された知見に基づき、ディケンズの徒弟小説の起源がエリザベス朝の演劇にまで遡ることが明らかとなったが、1600年から1840年代に至る膨大な演劇、小説の資料を整理する必要が生じた。初年度に購入したパソコンによる光学的文字認識装置によるテキストデータの処理が、この点で大きく役に立っていたが、さらにインターネットにおいて急速に拡大しつつある電子化テキストの公開によっても大きな利便が得られた。とりわけ英国のLiterature Onlineが提供する英国演劇と十八世紀小説のテキストデータベースの試用ができたことは、本研究の実施にあたって非常に有益であった。しかし、一ケ月感の試用であったため、十分な利用はできなかった。今後は正式の契約によってこのデータベースを十全に利用することが必要である。テキストデータの解析はさらに時間を要するため、年度末までに体系的なまとめをすることはできなかったが、論文執筆にあたって、キーワードの検索などで有効であった。研究代表者が執筆した論文は、冊子体報告書にその全体を掲載した。ディケンズの徒弟小説のみならず、デフォー、リチャードソンに始まる英国小説の本質を解明できたものと思われる。今後は、電子化テキストデータベースの本格的な利用により、演劇と小説のジャンル交替について、さらに新しい知見が得られるものと期待される。
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