本年度は、主として図書の蒐集と、次年度以降の研究に対する準備に終わった.筆者の今面の研究は、ミルトンの先駆者としてフィリップ・レドニー卿の思想と文学を考察することであった.両者はともに、イギリス・ルネッサンスの最も高尚な貴族主義的側面を代表するものである.すなわち、古典古代の教養とキリスト教の信仰が結合して、ひとりの人格のなかに具現した典型的な実例がここに見られるのである.シドニーほど外国で人気を博した英国人も少ない.そのような人望の由って来る所以も調べたい. ところで、ミルトンとシドニーを比較する上で、補助線としてペトルス・ラムスを指定し、ラムスに対する両者の関係を比較することが、便利でもあり有効でもある.シドニーが18歳のとき、57歳のラムスは暗殺された.二人の年齢の啓は39歳.しかもこの英国青年貴族は、この高名なフランス人哲学者の面識を得ていた.20年近くも、二人は同じ場所の空気を呼吸し、同時代人としての共有の意識があったはずた.それは思想を明確に図示しうると考えられる。前期ルネッサンスの新プラトン主義的警句である。だが、93年の年齢差のあるミルトンにとってラムスは歴史上の人物である、ラムスの影響は十分に自覚化しうるものであった.そこでシドニーとラムスが暗殺された聖バ-ソロミュー事件とシドニの県警を調べる方が近道であるように思われる。
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