平成7年度は、アメリカ演劇に限らずイギリスの劇を含め三部作、サイクル劇、連作劇を多く読んだが、研究対象はサム・シェパ-ド、オ-ガスト・ウィルソン、ランフォード・ウィルソン、ロバート・シェンケン、トニ-・クシュナーなど、連作劇を発表している戦後アメリカの劇作家に絞られてきている。彼らの劇の中でもアメリカの歴史および家族を扱った連作劇に注目しているが、その多くはかつてユ-ジーン・オニールが試みて果たせなかった、アメリカ二百年の歴史を一家族の運命を軸に描き出すという連作劇の構想に繋がるものである。 現時点では、叙事詩、サガ、歴史劇を目指す連作劇、すなわち、南北戦争にまで遡ってアメリカを語る劇、或いはロバート・シェンケンのように、植民地時代から現在に至るまでのアメリカの全体を物語る劇を中心に考察を進めることが最良のアプローチであると思われる。1960年代の南北戦争百年、1970年代のバイセンテニアルなどのイベントがこれら連作劇の台頭に影響しているのは確かだが、オニールの影響下、戦後アメリカ劇作家の多くは同時代作家が小説や詩で試みたことに同じく取り組んでいるというのが、現時点における結論の一つである。すなわち、独特でありながらかつ代表的な人間を登場させ、単発的と見えて繰り返される事件を通して、リアルであると同時に神話的な、モダン或いはポスト・モダンのアメリカ叙事詩を構築しようとする試みである。研究対象が現代作家中心であるため、十分な評論研究がないというのが難であるが、それを補うべく、ギリシャ・ローマ、中世、ルネッサンス期の連作劇研究だけでなく、小説、詩など他ジャンルの考察も継続していく。また、連作劇は現在も、書き継がれるという生成の最中であり、劇作家によっては既に発表された劇を連作から外すということもある。こうした状況を踏まえつつ、8年度は連作劇の意味を明確に支持することに努める。
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