平成7年度および8年度の2カ年にわたり、サム・シェパ-ド、ランフォード・ウィルソン、オ-ガスト・ウィルソン、ロバート・シェンケン、トニ-・クシュナーなど、サイクル、あるいは連作劇を発表している現代アメリカ劇作家を中心に研究を進めた。その結果、この世代が連作劇によって叙事詩的展開を求める背景には、ユ-ジン・オニールの影響と鼓舞するところが大きいと考えるに至った。オニールはアイルランド系アメリカ人の家族の歴史を描くことによって、アメリカ二百年の歴史を跡づけることを意図していたが、ロバート・シェンケン、ランフォード・ウィルソン、オ-ガスト・ウィルソンなども同様の構想があることを明らかにしている。アメリカの劇作家には家族劇の創作が多く、「家族」はアメリカ演劇の中心主題であることは言うまでもない。従来、こうした家族劇の多くは人物、とりわけ、若い芸術家に焦点を合わせた心理的肖像画というべきものであった。 これに対し、今回の研究で取り上げた一群の連作劇は、開かれた、エピソード連結の構成を積極的に選択し、従来の想像の地平をさらに遠方にまで押し広げようとしているように思われる。こうした構成は劇に相互作用、影響、発展、変化をもたらし、結果、アメリカ演劇の永遠の主題である家族における人物の心理的探究だけでなく、西洋演劇の最も古典的と言える、「国家の隠喩としての家族」という主題によって提起される、より遠大かつ広汎な問題を内包する劇作の誕生を見た。この近年のアメリカ演劇における連作の傾向は1960年代以降本格化したが、今後もアメリカ演劇新生の原動力の一つとして続いていくものと考える。
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