The Faerie Queene全巻の本文を書誌学的データに基づいて見直し、将来の新しいテクストの編纂に資するため、まず、第1巻から第3巻までは、1590年出版の初版を、第4巻から第6巻までは、1596年出版の初版を、Cantos of Mutabilitie(第7巻)いついては1609年の二折版をベーステクストとして、コンピュータ入力済みのテクスト・ファイルを厳密に校正した。次に、約12部の異本を校合し、印刷中に生じた異同(プレス・バリアント)を収集し、各異同について正誤を判断して記録した。各巻のテクストの確定に際してこれを参照した。最後に、全テクストを検討し、オリジナルの誤植の訂正を含めて変更を加えた箇所をすべて記載したテクスチュアル・ノ-ツを作成した。それぞれ再版と校合して異同を検討した他、Oxford EditionやVariorum Edition等の現代版も参考にしてテクストを決定したが、全体としては初版テクストを尊重する編纂方針をとった。 異本校合からは、これまでに記録されていない新たなプレス・バリアントをいくつか発見することができた。第1巻から第3巻の初版本に付された正誤表の分析からは、印刷所における校正の様態、及び詩人のスペンサーの関与の仕方などについて推定する上で、相当の根拠を得ることができた。また、韻律に即した綴り字については、第1巻から第3巻の再版の植字工は全体としてかなり忠実に原稿を再現しているが、韻律を乱す形での変更をしている場合も多いことも明らかにした。これらに関しては、A Note on the Frrata to the 1590 Quarto of The Faerie Queeneと題して『金城学院大学論集』に発表した。綴り字韻の不揃いについては、詩人、植字工の双方とも原則として校正の対象としなかったことが、ほぼ明らかになった。これに関しては、「『妖精の女王』の脚韻語の綴り」として、日本スペンサー協会編による論集(本年6月刊行予定)に投稿した。
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