平成7年度は、以下の項目に関して研究を行い、それぞれの成果を得た。 1.ハーマン研究など、啓蒙主義に関するこれまでの自分の研究を、まだ未取得であった多くの文献を検討しつつ、批判的に検証し、深化した。そして、その成果を、書物として発表できるところまでまとめた。伝統的な文学史記述において、宗教の立場からの反啓蒙の闘士と見なされてきたハーマンの理解の一面性を指摘し、「啓蒙と啓蒙批判の両義性」の流れの中に位置づけた。時代錯誤に陥ることなく、真の「啓蒙の啓蒙」を志向したハーマンにおいては、批判の起爆剤としての文体の重要性に注目することが不可欠であることを明らかにした。 2.あわせて、啓蒙主義前期の伝統批判にみられるような「批判の一義性」の主張から、批判が自らの「両義性」を自覚し、啓蒙それ自体を問題化していく過程を多くの文献に照らして、跡づけた。資料にあたった結果、ほぼ、当初に予想した「啓蒙における批判の両義性」を実証的に証明し得た。 3.その後、これまであまり日本では顧みられず、そのためあまり資料の多くない18世紀の「敬虔主義」末期や19世紀の「覚醒運動」などの宗教史的文献を購入し、その研究にはいった。その運動において記された説教、自伝、教義書などを伝統の「批判」と「保持」という主題に関して読み解き、その啓蒙に与えた積極的また消極的影響を文学史の観点から見直す作業を行った。 4.この3.の過程で、抽出されてくる啓蒙批判のための主要な概念・形象・イメージを聖書や神話の多用なイメージの連関・連想のなかで位置づけ、その関連をさぐった。そのために、CD-ROMと、そのパーソナルコンピュータ用読み取り機を用いて、多面的な検索を行い、これまでコンコルダンスではできなかった複数の項目の錯綜する関わりをも追求した。
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