ドイツ啓蒙における過去の批判が両義的であり、伝統の否定・捨象という一面とともに伝統の保持という別の側面をも併せ持つことを検討し、この観点からドイツ近・現代文学全体の流れを跡づけた。 科研費の交付を受けて今年度は、研究対象を拡大し、啓蒙主義とそれに直に続く時代(18・19世紀)における「啓蒙の啓蒙」の系譜を跡づけた。今日まであまり顧みられることのなかった「ピエティスムス」から「覚醒運動」の系統に連なる人々に光をあてることを試みた。「批判」の第2の要素としての「保持」に不可欠な、宗教的イメージないし神話的形象の積極的働きが、批判の否定的運動に対して、どのような肯定的世界像を提示するか。この点を批評文学や神話学・宗教学の文献に照らして検討した。 これまであまり日本では顧みられず、そのためあまり資料の多くない「敬虔主義」末期や「覚醒運動」などの宗教的文献を購入し、その研究を重ねてきたが、それらの文献を読み解いた成果を、またその啓蒙に与えた積極的消極的影響を文学史の観点から見直し、「批判の両義性」の観点から跡づける作業を行った。 さらにその成果を問題のより広い学問的地平の中において検討した。そのために18・19世紀の神学・哲学・宗教学・神話学の記述にあたって、学問の境界を横断する広い地平の中で、啓蒙の持つ問題性を明らかにした。 以上の研究をふまえて、ドイツ文学ことにその批評文学の伝統の中で、啓蒙と宗教の関わりをその相互批判の過程として、その関わりの積極的な意義を検討しつつある。批評文学の伝統の中で、啓蒙と宗教の関わりという問題の意義を最終的に結論づけようとしている。
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