1)「ドイツ近代詩における動植物のインデックス」の作成は予定通りに進捗した。平成7年度に二十世紀の詩人の調査を実施したのを受けて、本年度は十九世紀の詩人を取り上げ、ゲーテ、ヘルダーリン、ドロステ・ヒュルスホフ、シュトルムの全詩作品に登場する動植物を調査し、コンピュータに入力した。十九世紀と二十世紀の比較調査の資料としてはこれで十分であるが、さらにメ-リケ、リルケなどを加えるのがベタ-であることも判明した。 2)十九世紀の詩人たちは自然を人間の生活環境として見ている面がつよく、特別な科学知識にもとづく分析や異境の自然の探究などは少ない。詩に好んで用いられる自然の形象が、まだトポスとして生きていることが認められる。その点ドロステ・ヒュルスホフはその微細な自然観察によって、二十世紀の自然詩人の先駆というべき詩作をしている。 3)ゲーテ、ヘルダーリンは南独、ドロステ・ヒュルスホフ、シュトルムは北独の詩人なので、南北の比較も可能となり、歌われる動植物の種類に違いがあることが明らかになった。生態系の違い、生活感情の違いとの関係を考慮しつつ、このテーマも引続き掘り下げたい。 4)平成8年5月、日本独文学会の研究発表会でシンポジウム「ドイツ現代詩における自然」を主宰し、自らも十九世紀から二十世紀にわたる自然抒情詩の変遷について発表した。ドイツ文学史のなかに独特の自然詩の系譜の存在することが学会レベルで確認された。 5)ボブロフスキー研究については、平成8年夏にリトアニアの自然の現地調査を行なったことによって大きな進展があった。この詩人の全体像を描き上げる仕事は、動植物についての研究成果を活用しながら徐々に進められている。
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