1)データベース「ドイツ近代詩にあらわれる動植物のインデックス」を作成した。調査の対象としたのは、二十世紀以前の詩人からゲーテ、へルダーリン、アイヒェンドルフ、ドロステ、シュトルムの5人、二十世紀の詩人からレルケ、レ-マン、アイヒ、バッハマン、ツェラーン、フ-へル、ボブロフスキーの7人である。このインデックスにより、どの動植物がどの詩人に好んで扱われているか、またどれがどの詩に出てくるか、などを調べることができる。 2)上記インデックスにもとづく調査研究の成果は論文「ドイツの近代詩における動植物のあらわれ」にまとめた。ドイツの近代詩人はおしなべて自然と深いつながりをもっているが、ゲーテやへルダーリンなど古典期の詩人たちは、神の創造した自然を崇拝する気持ちがつよく、それを表現するために詩のなかに登場する動植物は、古典古代から受け継がれたごく限られた種類のものだった。女性詩人ドロステは、身近にある動植物を観察し、それを詩のなかで記述するというかたちで自然を詩のなかに取り込んだ最初の詩人である。二十世紀になってレルケから姶まるドイツ自然抒情詩派は、ドロステの詩精神を受け継ぎ、動植物の精細な観察を基盤とする詩作に徹する。そのうえでレルケやレ-マンはナチ時代に国内亡命の立場をとりつつ、ナチズムへの反感をカモフラージュして表現するのに活用した。フ-へルは故郷ブランデンブルクの自然を軸としながら、異郷の自然に漂泊の身を嘆き、ボブロフスキーは彼のいわゆるサルマチアの自然を描き出すことにより、この地域におけるドイツ人の過去の罪過をあぶり出している。しかしバッハマンとツェラーンはこの系譜には属さず、自然の扱いに関する限り、へルダーリンら古典期の詩人のうたいかたに近いことが明らかになった。
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