申請者は、ドイツ語圏における近代化のプロセスと表象活動との関連性をテーマに研究を進めてきた。第一に、表象活動の典型として文学テキストを選んだが、それは、文学現象に則して、近代的著者・近代的主体の形成過程を系譜学的に追っていく中で、近代化の持つ固体的位相を明らかにするためである。次の段階として、<マス・群衆>をめぐる近代化のプロセスを研究対象とした。けだし、近代的な政治解剖学は、一方で、<著者>つまり<代替不可能なオリジン>という代替可能なモデルを擁して文学現象に対して発動されるが、他方、人間の身体各部位に関して文節化すると、計算された身体と生命の管理というマニュアル的支配の体系に移行する。「バイオ権力」の問題系列である。バイオ権力は健康について、個人的な出来事としてではなく、集合的な健康保健統制システムの問題として語る。そして、このシステムの対象はつねに都市空間全般である。ここに、近代化プロセスの研究の第二段階として都市空間を語る必然性があった。 この第二段階と端緒として、上記テーマで、十八世紀以降におけるベルリンの墓地・埋葬形式をとりあげ、公衆衛生・死生観という角度から、近代化の過程をエピステモロジカルに分析した。ベルリンは都市空間として、公衆衛生はバイオ権力の発動形態として、また埋葬形式は衛生問題の具体的かつ本質的事例として、上記の研究目的にもっとも適しているからである。上記補助金の援助により、ベルリン国立図書館など公的機関より第一次資料を入手、分析し、埋葬に関する衛生的観点の成立とは、近代的な政治解剖学がマス・群衆を標的に都市空間的に発動されたものであるという事態を確認することができた。そこでの分析結果は、平成七年度後半よりすでに学術雑誌、新聞等において連載枠を確保し(大修館書店月刊『言語』連載「都市と近代」、『図書新聞』連載「書物のアナトミ-」)継続的に発表しつつあり、ひとり申請者が専有することなくまた学会のみならずより広い言論界へとフィードバックし、一般の読者にも公表している。
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