今年度の研究の目的は、現在行っている朝鮮本の語学的・書誌学的研究『日本現存朝鮮本総目録』の作製に資することである。今年は特に大阪府立図書館本の調査を中心とし、その他に東京大学附属図書館・内閣文庫・駒澤大学・京都大学・京都府立総合資料館等で調査を行った。特に大阪府立図書館では700冊に及ぶ朝鮮本を着了した。これら調査済みの書は、幣科所有の諸資料を用いて語学・書誌的事項の確認を行い、『総目録』に入力しつつある。 従来朝鮮本の諸目録では、テリ者・テリ地・テリ年に注意が佛われず、未詳のままであった。これらは朝鮮文化史を考える上で、極めて重要な事柄である。ある書籍が朝鮮の歴史上、幾度刊行されたが、又誰が、何度で刊行したかは、文化のあり方や地方性を考えるのに必須の事柄である。従来は直観的に版式や本の古びによってテリ年を決めていた。しかしそれを客観的に決定し得る要素が存在する。それは版心部に刻された刻工名であって、15、17世紀のテリ本には、すべてではないが屡々見受けられる。テリ工名を廣く採取し、刻々の生存時期と生存地域を確定しておけば、それを基準として、刻工名のあるテリ本ならば、テリ刊地とテリ行時期を推定し得るのである。 筆者は、二十年飾刻工名を募集して来たが、今年の調査に於ても多くの刻工名を集め、基礎作業の基盤を固め得た。
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