近代ロシア文章語の成立期における、語彙的・文体的変化を追うために、(1)ラヂシチェフの「ペテルブルグからモスクワへの旅」(1790年)、(2)カラムジンの「ロシア人旅行者の手紙」(1791-2年)、(3)プ-シキンの「大尉の娘」(1836年)の作品のテキストをコンピュータで分析するのが、本研究の目的であった。 この目的のため上記3作品を光学的文字読み取りで電子データに変え、これらに形態素解析を行ってデータベース化し、辞書的見出し語でまとめたlemmatized concordanceを編集した。このコンコーダンスから見出し語を抽出すると、確実な語彙統計が得られる。 このようにして得られた語彙統計を一つにまとめ、上記3つの作品の使用語彙の比較を行った。なおこれらの数値には、さらに広い視野からの分析のために、プ-シキン辞典と現代ロシア語頻度辞書での頻度も補記してある。 データの解析そのものはまだ途中であるが、いくつもの興味ある現象が観察される。例えば(1)と(2)で共通する「古さ」を示すものとして、名詞と動詞の使用割合から、これらでは名詞を主体としてた概念的・静的表現が優勢であることや、現代ロシア語では頻度の少ない所有の動詞が上位に来ること、会話を導入する動詞の頻度の低さ等が上げられる(これは間投詞の種類の少なさにも反映している)。 一方(2)と(3)の共通性を示すものとして、「古めかしい」接続詞や小詞の使用が非常に少ないこと、スラヴャニズムの非ポルノグラーシエ形の使用が希なこと等が数多く発見できた。現在これらは部分的な観察に留まっているが、将来は多変量解析等を使って、(1) (2) (3)の間の差異を全体的な視野から計ってみたい。
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